口腔扁平上皮癌細胞株を、転移能の有無によって2群に分けた。転移能を有するものとしてB88細胞を、転移能を持たないものとしてSAS細胞を使用した。これらの細胞を使って、外因性のアポトーシス誘導刺激として知られるTRAILに対する感受性を、WST-1 assay法を用いて検索した。10~100ng/mlの濃度でTRAILを作用させたところ、転移能を持たないSAS細胞では10ng/mlで約半数の細胞にアポトーシスが誘導され、100ng/mlの濃度で約70%の細胞にアポトーシスが認められた。一方、転移能を有するB88細胞では100ng/mlの濃度でも、全くアポトーシスが誘導されなかった。次に、細胞培養用プレートの表面を加工して、細胞が接着しにくくなったプレートを併用して、転移能の有無と、細胞の足場の喪失(アノイキス)によるアポトーシス誘導能の関係を評価した。また、これにTRAILを上乗せすることで、足場非依存性、つまり脈管内を遊走中の癌細胞のTRAILに対する感受性を評価した。転移能を持たないSAS細胞では、接着の足場を失うことで約40%の細胞がアポトーシスに陥り、TRAILがこれを増強した。一方で、転移能を有するB88細胞は、足場非依存性の条件下でも約10%の細胞にアポトーシスが見られたのみで、TRAILの添加によっても、アポトーシスが増強されることはなかった。転移巣形成のためには、癌細胞は足場非依存性の生存・増殖能を獲得する必要がある。今年度の結果から、転移能の有無とTRAILに対する感受性は相関しており、足場を喪失した条件下でTRAILがアポトーシス誘導能を発揮できるようにすることで、転移を抑制できる可能性が示唆された。
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