口腔扁平上皮癌細胞株を転移能の有無によって2群に分け、転移能の有無と外因性のアポトーシス誘導刺激であるTumor necrosis factor Related Apoptosis Inducing Ligand(TRAIL)に対する感受性、細胞培養用プレートの表面を加工し細胞が接着しにくくなったプレートを併用して細胞が接着・増殖するための足場の喪失によるアポトーシス(アノイキス)誘導能の関係を評価した。また、足場喪失状態の細胞にTRAILを作用させることで、足場非依存性、つまり脈管内に侵入し遊走中の癌細胞のTRAILに対する感受性を評価した。これらの検討から、転移能を有する癌細胞ではTRAIL、に対して強い抵抗性を有しているものの、足場を喪失した条件下にTRAILを作用させることでアポトーシスが誘導されるようになることが明らかになった。一方で、転移能を持たない癌細胞は、TRAILに高感受性であり、足場の喪失はアポトーシスを増強した。つまり、転移能を有する癌細胞のTRAILに対する抵抗性を解除することで、転移を抑制できる可能性が示唆された。続いて、TRAILへの抵抗性の原因を探索するために、TRAILの4つの受容体について、その発現レベルをmRNA、蛋白質の両面から評価した。転移能の有無にかかわらず、受容体の発現レベルは両種の細胞間でほぼ同様であったが、細胞内の局在が異なっていることが明らかとなった。つまり、TRAILに抵抗性を示す転移癌細胞では、その受容体が細胞膜表面に発現しておらず、細胞内に局在しているためにTRAILが結合できず、アポトーシス誘導刺激が伝わらないと考えられた。また、受容体より下流のアポトーシス関連因子群の発現レベルも、転移能の有無によらず同様であった。
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