今回我々は、口腔癌におけるMUC1遺伝子のスプライシング異常の検出を行い、臨床病理学的事項との関連について検討し、その結果を早期発見および治療方針の決定へ反映し、また分子標的治療のターゲットを見いだすことで治療成績の向上に寄与することを目的とした。初年度である平成21年度は、口腔癌症例の組織を用いてMUC1およびMUC4ムチンの発現を検索し、臨床病理学的事項との関連性を検討することで、これらの膜型ムチンの多くのバリアントを含む包括的なタンパクレベルでの発現が口腔扁平上皮癌の予後予測因子になりうるか検討した。 鹿児島大学病院口腔外科を1992年から2001年までの期間に受診した未治療口腔扁平上皮癌症例のうち、107例の生検材料を用いて膜型ムチン抗原(MUC1とMUC4)の免疫組織学的染色を行った。免疫組織化学染色はEliteABC法を用いて通法通り行われた。免疫染色後、陽性であった腫瘍細胞の腫瘍全体に占める割合を計測し、5%をカットオフとしてそれ以上のものを発現群、5%以下のものを非発現群とした。危険率5%以下を有意とし統計学的検討を加えたところ、以下の結果が得られた。 (1) 正常上皮では発現しないMUC1およびMUC4は、一部の口腔癌症例において過剰発現していた。(2) これら膜型ムチンの発現は腫瘍の進展、リンパ節転移、ステージの進行と有意に関連していた。(3) MUC1、MUC4発現群は、非発現群に比べてそれぞれ5.2倍、3.6倍頸部リンパ節転移を有する危険性が高かった。(4) MUC1およびMUC4ムチンの発現群は非発現群と比較して有意に生存率が低かった。 以上の結果より、膜型ムチンであるMUC1およびMUC4の過剰発現は、口腔扁平上皮癌の新しい有意な予後予測因子であることが示唆された。今後は個別のスプライシングバリアントに対して検討を加えていく予定である。
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