腫瘍血管新生は、構造的・機能的に幼弱で酸素供給が不十分なるゆえに腫瘍低酸素領域を形成する。これまでは低酸素特異的転写因子であるHIFの機能解析が中心に行われてきた。われわれは口腔癌細胞株を使って低酸素下で転写因子NF-kBが、HIF-1αの発現を制御していることを示してきた。NF-kBの機能を阻害することで、血管新生を阻害し腫瘍血管新生を抑制することで、新たな治療法の開発につながる。今年度は腫瘍を増大させることなく、低酸素領域を減少させ、腫瘍血流を解消できる血管形成に関する転写因子を探求している。以下概要を記述する。 1. 口腔癌細胞株をもちいて、低酸素環境下で増殖活性の高いグループと低いグループを同定し分類した。分類された各種細胞株に対して放射線照射単独、TS-1単独あるいは併用群で細胞増殖活性を解析している。 2. 上記の細胞群において、低酸素環境下特異的な遺伝子発現の網羅的解析をDNA microarrayを用いておこなっている。また口腔癌症例において低酸素領域にある癌細胞をLaser Microdissection (LMD)法により採取し、遺伝子発現を検討している。NF-kBの他に、腫瘍血管形成に関する転写因子を同定しているところである。 3. 口腔癌症例において、生検時のサンプルで腫瘍細胞による血管浸襲が認められる症例を同定。経過観察中にみられた腫瘍の再発様式は、動注化学療法にて選択した血管の末梢側に多くみられた。腫瘍細胞が血行性あるいはリンパ行性に転移するメカニズムが関与すると考えられるが、低酸素環境にある癌細胞の存在が再発に関与する可能性が示唆された。
|