研究概要 |
本研究では,ポリリン酸による歯・歯周組織再生促進メカニズムを明らかにすることを目的とし,ポリリン酸の軟骨前駆細胞への作用を検討した。マウス軟骨前駆細胞株ATDC5を5%FBS添加DMEM : F12(HAM)=1:1等比混合培地にて培養。48時間後に5%FBS、1% insulin-transferrin-selenium solutionを添加したα-MEMに交換し、さらに24時間後、平均鎖長60、1mmol/Lのポリリン酸、β-グリセロリン酸をpositive controlとして添加し35日間培養を行った。石灰化の同定は、アリザリン・レッド染色、軟骨基質産生の評価は、アルシャン・ブルー染色を行い検討。遺伝子発現の評価はRT-PCRで検討、遺伝子産物の同定にはWestern blot法を用いて検討した。ポリリン酸分解活性は、薄層クロマトグラフィーで検討した。 その結果、アリザリン・レッド染色では、ポリリン酸を添加群で石灰化基質の形成を認め、細胞の分化が促進された。アルシャン・ブルー染色では、ポリリン酸を添加群で軟骨基質が少なく比較的早期に軟骨形成を開始した。RT-PCRの検討では、軟骨形成の関連因子(sox9、aggrecan、10型collagen)において、ポリリン酸添加群でいずれも培養初期に発現量が最大となり、軟骨分化がごく短期間に行われることが考えられた。リン代謝関連因子(Pit1、ANK)の検討では、それぞれの発現量は徐々に増加、リンの取り込みは活性化され同時に細胞外ピロリン酸の濃度も増加すると考えられる。リンの分解関連酵素(ENPP1、ALP)の検討では、ENPP1では早期に誘導され、ALPの発現量はポリリン酸添加では低下した。一方Western Blotの蛋白発現では、ALPの発現は、ポリリン酸添加はコントロールよりも発現レベルが低下した。薄層クロマトグラフィーでの検討では、ポリリン酸添加群では、リン酸、ピロリン酸のほか3リン酸、4リン酸などの代謝産物の著名な増加がみられ、ALPとは異なるリン代謝酵素の活性の亢進が示唆された。 今後,ポリリン酸の軟骨細胞による軟骨形成、骨形成にかかわるリン代謝機構について遺伝子レベルで確認し、発現調整シグナルを検討し、そのメカニズムを明らかにする。
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