顎関節症や線維筋痛症などに認められる慢性筋痛には性差が存在することが知られている一方で、痛みの慢性化には脊髄など中枢レベルでP2X4やP2X7などのATP受容体が関与していることが報告されている。そこで、脊髄においてP2X4やP2X7などのATP受容体の反応性が、エストロゲンなどの性ホルモンの変化により生じた痛みに影響を及ぼすのかについて検討を行ってきた。 今までの2年間研究では、ラットに3%のカラゲニンを注入することにより得られる筋痛の行動学的な変化に、性ホルモンであるエストロゲンが関与するかについて検討を行い、高濃度のエストロゲンを補充したラットでは痛み関連行動が増加することを確認した。そこで、ニューロンレベルで検討を行うため、ラットの咬筋に3%のカラゲニンを注入することにより得られる三叉神経脊髄路核尾側亜核(以下延髄後角)の侵害受容ニューロンの反応性を検討したところ、健常ラットでは性差は認められなかったものの、卵巣を摘出した後に高濃度エストロゲンを補充したラットに関しては、卵巣摘出のみを行ったラットに比べて、延髄後角の侵害受容ニューロンの反応性(閾値や受容野)は高まる傾向にはあった。しかし、両群に有意差は存在しなかった。 そこで、今回は卵巣を摘出した後に高濃度エストロゲンを補充したラットと卵巣摘のみをしたラットの両群に髄腔内にP2X受容体のアンタゴニストであるPPADS(100μg)を投与したところ、両群とも侵害受容ニューロンの活動は抑制される傾向にあったものの、抑制率に関しては両群で有意な差は認められなかった。 以上のことから、慢性筋痛で性差が生じる原因に様々な理由が考えられるが、高濃度のエストロゲンを補充したラットで認められる痛みの増加とATP受容体には関連性が低い可能性が示唆された。
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