ニューロンの細胞体に密着して存在するグリアには、髄鞘を形成しないオリゴデンドロサイトが存在することが古くから知られている。しかし、このニューロン周囲オリゴデンドロサイトが一体どのような化学的特性と機能的役割をもつ細胞であるのか、未だ不明な点が多い。今回、口腔領域と関わりの深い大脳皮質体性感覚野を含めた大脳皮質における、ニューロン周囲オリゴデンドロサイトの発現特性を、グリア細胞に発現する代謝酵素のうち、その代謝産物がニューロンの機能発現や生存に関わる分子を中心にして免疫組織化学的に検討した。その結果、ニューロン周囲オリゴデンドロサイトは、ニューロンのエネルギー代謝や栄養に関わる分子であるGAMT(クレアチン合成酵素)やPhgdh(セリン合成酵素)を高率に発現し、興奮性ニューロンのシナプス伝達に関わる分子であるGS(グルタミン合成酵素)、GLAST(グルタミン酸トランスポーター)は中等度に発現、もしくは発現陰性であった。また、GAD陽性の抑制性介在ニューロンに付随する割合が低いことがわかった。さらに、電子顕微鏡による観察から、ニューロン周囲オリゴデンドロサイトは、大型の主要なニューロンの細胞膜に密着して存在していた。発達段階では、ニューロン周囲オリゴデンドロサイトは、生後0日から出現し、シナプスが成熟する生後14日から21日にかけて、ニューロンの核周囲部に、より密着して存在するようになった。したがって、ニューロン周囲オリゴデンドロサイトは口腔周囲の皮膚感覚領域を含めた主要なニューロンの成熟に伴って分化し、そのエネルギー代謝の支援に関わることが示唆された。
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