本研究では、歯科矯正力が作用した部位-作用点周囲の歯槽骨内という微小環境-に存在する骨芽細胞・破骨細胞内でのセルサイクルファクターの発現変動パターンの検討、ならびにそれらを利用した新規歯科矯正治療技術開発のための基礎的検討を目的としている。今年度は、歯の移動にともなう周囲の微小環境変化に対応した遺伝子の発現変化を網羅的に検索するための準備として、実験モデルの確立を試みた。歯の移動実験モデルとしては、(1)生後8週齢のマウス上顎左側第一臼歯(M1)と第二臼歯(M2)間にWaldo法に準じてゴム片を挿入し、相反的な歯の移動を行なう(反対側にはゴム片は挿入せずコントロールとする)方法、および、(2)生後8週齢のマウス上顎切歯を固定源とし、クローズドコイルスプリングにより、M1を近心に移動させる(反対側では矯正力を作用させずにコントロールとする)方法の二種類を候補として検討したが、両者における歯の移動度、実験の簡便さ等を比較検討した結果、(1)(2)の両方ともに本実験に応用可能であることが分かった。そのため、基本的には、より歯科矯正治療に近いと思われる(2)を用いることとし、実験の種類によっては補助的に(1)を使用することとした。また、骨形成・骨吸収の両方で重要な機能を果たしていることが報告されているセルサイクルファクターの骨芽細胞内における発現を分子細胞生物学的にコントロールした場合に、その発現レベルが変動する遺伝子を網羅的に検討したところ、これまでに骨形成と関連があると思われていなかった複数の転写因子の発現レベルが変動しているという結果を得た。
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