歯科矯正治療は、圧迫側における破骨細胞による骨吸収、牽引側における骨芽細胞による骨形成、この両者のバランスを制御することで成立している。したがって、これらの制御メカニズムを解明することは、歯科矯正学の究極目標である、安全で効率良い歯の移動を実現する一助となる。また、セルサイクルファクターが骨吸収ならびに骨形成を制御していることを示唆する知見は次々に報告されているため、そのメカニズムの解明は、骨吸収と骨形成を利用する歯科矯正学の発展に大きく貢献する可能性が高い。しかしながら、矯正力が作用した際の骨のリモデリングに対する、セルサイクルファクターの関与については、ほとんど報告例がなかった。そこで本研究では新規歯科矯正治療法開発に向けての基礎的検討として、歯科矯正力が作用した部位での骨芽細胞・破骨細胞におけるセルサイクルファクターの関与を解析した。昨年度は、歯の移動にともなう周囲の微小環境変化に対応した遺伝子の発現変化を網羅的に検索する前準備として、試行錯誤しながら実験モデルの選択を行ったが、今年度は、その実験モデルで安定した歯の移動が実現出来るように時間的要素をはじめとした細かな条件検討を加えた。そして、骨芽細胞分化能が亢進している条件で発現変動しているサイクルファクターを網羅的に解析するためにDNAマイクロアレイを行い、同条件においてはサイクリンB1、サイクリンE1、p21が発現上昇し、p57が発現低下しているという結果を得た。また、破骨細胞の分化能・活性が上昇している条件に関しても同様に網羅的解析を加えるべく準備をしている。
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