研究概要 |
う蝕原性細菌Streptococcus mutansにおいて分子疫学的解析法の1つであるMulti Locus Sequence Typing(MLST)法を確立する過程において,コラーゲン結合タンパクをコードする遺伝子を有するS.mutans菌株が系統樹上のあるクラスターに集中し,高ビルレンス株のカテゴリーを形成している可能性が明らかになった.そこで,本研究では,これらの株における循環器疾患に対する病原性を検討することにした.まず,マウス脳出血モデルを用いて分析した結果,コラーゲン結合遺伝子を保有する菌株では,保有しない菌株と比較して,有意に重篤な脳出血の悪化が認められた.その後,これらの菌株に共通する分子生物学的特徴を利用した検出系を確立するとともに,唾液サンプルを用いた簡易検出法の確立も行った.次に,諸外国において分離された菌株を用いて,コラーゲン結合遺伝子の存在に関する分析を行ったところ,日本だけでなくフィンランドやタイにおける分離株でも同様の菌株が存在することが明らかになった.また,S.mutans以外の口腔レンサ球菌全般において分析した結果,Streptococcus salivariusにおいてもコラーゲン結合能を有する菌株が高頻度に存在することを明らかにした.一方で,I型コラーゲンへの結合能はS.mutansの方がS.salivariusよりも有意に高いことを示した.その後,感染性心内膜炎患者から高頻度に検出される血清型k型のS.mutans菌株から,既知のコラーゲン結合遺伝子と相同性を有する遺伝子を見い出したため,その病原性に関する分析を現在進めている.
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