PDGFが唾液腺の発達過程において役割を果たしているかどうかを解析するために、我々は最初にPDGFとその結合受容体であるPDGFαRおよびPDGFβRの発現を免疫染色法を用いて検討した。その結果、PDGF-Aは主に上皮、PDGF-BとPDGFαR、βRは間葉に発現を認めた。次に、PDGF刺激を行うことでマウス顎下腺細胞の細胞内にシグナル伝達が起こるかどうか検討するために、PDGF-AAあるいはPDGF-BBの刺激を加え、刺激後0分から60分までのERK1/2リン酸化をウエスタンブロッティング法にて解析した。PDGF-AA刺激では、刺激5分後にERK1/2リン酸化のピークをむかえ、時間の経過とともにリン酸化の程度は減少した。一方PDGF-BB刺激では、刺激5分後と60分後にERK1/2リン酸化のピークをむかえる二峰性の活性化パターンを認めた。さらに、これらPDGFによるシグナル伝達が、上皮あるいは間葉のいずれかで行なわれているかを確認するために、上皮細胞および間葉細胞にそれぞれPDGF-AAあるいはPDGF-BB刺激を行なった。PDGF-AAおよびPDGF-BB刺激ともに、間葉組織でのERK1/2リン酸化が検出され、上皮では認められなかった。また、無刺激の場合はERK1/2リン酸化を認めなかった。これらの結果は、PDGF受容体が局在する間葉組織において、PDGFシグナル伝達が行なわれていることを示している。さらに、PDGFで促進される分岐形態形成が細胞増殖によるものかどうかを検証するために、BrdU取り込み実験を行い、細胞増殖能の検討を行なった。上皮細胞の細胞増殖は、対照群と比較して、PDGF-AAで刺激した場合では約1.6倍、PDGF-BBで刺激した場合では約2.1倍増加した。これらの結果から、上皮細胞の細胞増殖を強く促進し、分岐形態形成を誘導したと推測された。
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