末梢神経傷害後には、障害を受けた神経細胞のみでなく、障害を受けていない神経細胞にも影響が及ぼされることが過去に報告されているが、障害を受けた細胞から、受けていない細胞への情報伝達がどのようになされているのか明らかでない。本研究ではニューロンの周囲を取り囲むSatellite glial cells (SGCs)を介してニューロン間の情報伝達が行われている可能性を検討するために、以下の実験を行った。まず、ラット上顎第一、第二臼歯間に矯正用ゴムを挿入し(Waldo法)、矯正的歯の移動に伴う三叉神経節のATF3(神経障害マーカー)、GS (SGCsのマーカー)、GFAP(活性化したSGCsのマーカー)免疫陽性ニューロンもしくはsatellite glial cellsの変化を調べた。その結果以下に示す知見が得られた。 1. GS免疫陽性によってSGCsの分布が示され、GFAP陽性を示すSGCsはGS陽性であった。 2. 上顎臼歯矯正的歯の移動後、ニューロンを取り囲むGFAP-IR SGCsの数は、コントロールと比較して増加した。 3. 三叉神経上顎部位のニューロンは、矯正移動によって障害を受けており、GFAP-IR SGCsは傷害されたニューロンの周囲に存在していた。 4. 下顎神経部位のニューロンは傷害されていなかったが、下顎神経部位のSGCsはGFAP陽性を示した以上の所見から、末梢神経の障害がTGのニューロンだけでなく、傷害を受けたニューロン周囲のSGCsも活性化させ、さらには障害を受けたニューロンから離れた部位のSGCsも活性化することが示された。この結果から、SGCsの活性が離れたニューロン間のコミュニケーションに関与し、三叉神経節内の異なる支配領域間の情報伝達に関係していることを示唆する。具体的にこの情報伝達が何によって行われているのかは未だ明らかでないため、今後検討する予定である。
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