本研究計画の目的は、インプラント周囲炎に関わる細菌叢を網羅的に解析し、その発症や進行に関わる「病原性バイオフィルム」像を明らかにしていくこと、およびバイオフィルムを破壊するために有用であると考えられる弱アルカリ性電解水の臨床応用の可能性を探ることである。 本年度はインプラント周囲炎患者よりサンプルを採取すると共に、一部のサンプル(3患者、9サンプル)を用いて、クローンライブラリー法により網羅的な細菌叢の検討を行った。その結果、インプラント周囲炎の認められる部位では健常インプラントの部位と比べ多種の偏性嫌気性菌が存在し、歯周炎部位からのサンプルと比べても、より複雑な細菌叢を示していた。また、インプラント周囲炎から既知の歯周病原細菌の検出率は低く、今後、サンプル数を増やしてさらに検討を進めてゆく。一方、弱アルカリ性機能水については、臨床応用の前にその抗菌効果や宿主細胞への毒性を評価するための基礎実験を行った。in vitroにおいて、歯周病原細菌であるA.actinomycetemcomitansとP.gingivalisの菌液を調製、次亜塩素酸電解水を作用させたものを寒天培地上に播種し、コロニーをカウントする方法でその抗菌性を調べた。その結果、短い接触時間(10秒)にもかかわらずコロニー数は減少し、その作用はコントロールである次亜塩素酸Na液やクロルヘキシジン溶液といった既存の消毒薬と同等かそれ以上であった。またMTTアッセイにより、次亜塩素酸電解水のヒトマクロファージおよびヒト歯肉線維芽細胞に対する細胞傷害性を調べたところ、コントロールと同程度かそれより弱い細胞傷害性が認められた。機能水の殺菌性・安全性の評価は、改良したモデルを用いて更に進めていく予定である。
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