前年度の結果より、インプラント周囲炎に認められる細菌は歯周炎のそれと違うような傾向が認められたこと(多種の偏性嫌気性菌が認められるが、歯周病原細菌が検出されない)から、より多くのサンプルで細菌種の同定を行い検討する必要があると考え、クローンライブラリー法による細菌種の同定を引き続き行った。サンプル数が増えると、P.gingivalis、 T.denticola、 F.nucleatumなどの歯周病原細菌が検出されるケースも増え、phylumレベルでの細菌叢はインプラント周囲炎と歯周炎で同様の傾向が示された。一方で細菌叢を構成する細菌種は、インプラント周囲炎の方が多い傾向は変わらず、Anaeroglobus geminatus、Atopobium rimaeなどインプラント周囲炎でのみ特異的に検出される細菌も数種あった。現在、インプラント周囲炎の治療後のサンプル採取を行っており、治療前後での構成細菌種の変化を定性的にみると共に、既存の歯周病原細菌およびインプラント周囲炎に多く認められた細菌を対象に特異的なプライマーを作成し、リアルタイムPCR法にて定量的に解析を進めている。これと臨床的パラメーターを比較し、細菌とインプラント周囲炎との関連について臨床的評価を進めている。 インプラント周囲炎の治療応用を考えた電解機能水については、安全性の検討を引き続き行った。歯肉線維芽細胞を用いたwound healing testにより、塩素濃度が30ppmの機能水添加の際には創部の閉鎖遅延、60ppmのものを加えると細胞の萎縮が観察された。これらの濃度は歯周病原細菌であるA. actinomycetemcomitansやP.gingivalisに対して抗菌作用を示すよりも低い塩素濃度であり、臨床応用の前に更なる検討を加える必要があると思われた。
|