研究概要 |
歯周病原細菌P.gingivalisは,宿主の免疫応答を制御しその排除機構から逃れ,歯周炎という慢性病態の成立に関与すると考えられる.我々は以前,P.gingivalisがマクロファージに対してTLRシグナル伝達系における負の制御因子IRAK-Mを増強し,免疫応答を抑制することを報告した.現在不明のIRAK-M制御因子,新たなTLRシグナル制御因子に関してマイクロアレイにより網羅的に解析を行うことで,P.gingivalisのもつ免疫回避戦略を明確にするとともに,歯周炎の病態解明を図る.本年度は特に,新たな遺伝子発現制御因子として知られるmicroRNAに着目し,P.gingivalisの影響を検討した.ヒト単球系細胞株THP-1を用い,P.gingivalis LPS,およびTLR2,4のリガンドであるE.coliLPS,Pam_3CSK4にて刺激し,8時間後にtotal RNAを抽出した.その後,851種のヒトmicroRNAが検出可能なマイクロアレイ(Agilent Technologies社)を用いて各種刺激によるmicroRNAの発現変化を解析した.その結果,P.gingivalis LPS刺激により2倍以上の変動を認めたmicroRNAは10種あり,その中でmiR-146aのみ有意な発現上昇を認めた.他の刺激においても同様の結果が得られ,miR-146aについてリアルタイムPCR法によりその発現変動を確認した.miR-146aは,TLRシグナル伝達分子であるIRAK-1およびTRAF6に対して特異的にその遺伝子発現および翻訳過程を抑制し,この伝達系を抑制的に制御することが知られている.P.gingivalisによるmicroRNAを介した新たな免疫回避機構の存在を示唆するものであり,今後はmiR-146aの機能解析,すなわちサイトカイン産生に及ぼす影響について検討する.
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