研究概要 |
歯周病原細菌P.gingivalisは,宿主の免疫応答を制御しその排除機構から逃れ,歯周炎という慢性病態の成立に関与すると考えられる.我々は以前,P.gingivalisがマクロファージに対してTLRシグナル伝達系における負の制御因子IRAK-Mを増強し,免疫応答を抑制することを報告した.現在不明のIRAK-M制御因子,新たなTLRシグナル制御因子に関してマイクロアレイにより網羅的に解析を行うことで,P.gingivalisのもつ免疫回避戦略を明確にするとともに,歯周炎の病態解明を図る.昨年度に行ったマイクロアレイ解析結果から,P.gingivalis LPSにて刺激した単球において,miR-146aの発現が上昇していることが明らかになった.このmiR-146aは,TLRシグナル伝達系に対して,IRAK-1およびTRAF6の遺伝子発現および翻訳過程の抑制を介して負に制御していることが報告されており,P.gingivalisによる新たな免疫回避機構の存在が示唆された.本年度はさらにmiR-146aのTLRシグナル伝達系さらには炎症性サイトカイン産生に及ぼす影響について,P.gingivalis LPSにて刺激したマクロファージを用いて機能解析を行った.その結果,miR-146aに特異的な阻害剤を用いてノックダウンさせた場合には炎症性サイトカイン産生に変化がみられなかったが,miR-146a前駆体を導入し強制発現させた場合に炎症性サイトカイン産生の低下が認められた.しかしながら,この強制発現時において,miR-146aのターゲットとして報告のあるIRAK-1,TRAF6の転写,タンパク発現には変化がみられなかった.従って,別のターゲット分子の存在が示唆され,今後はこれを検索し,P.gingivalisによるmicroRNAを介した免疫回避戦略の解明を図る.
|