歯周病は成人における歯牙喪失原因の第一位を占める。歯周病による歯牙の喪失は45歳過ぎから急激に増加し始めることより、生体の老化がその病因に関わることが考えられる。しかし、歯周組織破壊が、(1)生体の老化そのものが疾患の進行促進因子として働いた結果であるのか、あるいは(2)慢性的に徐々に組織破壊が進行した結果であるのか、については未だ解明されていない。 ウェルナー症候群は代表的な早期老化症であり、日本人に比較的多いとされる。本疾患の特徴は患者が成人に達するまでは正常に発育し、その後急速に生体の老化が進むことである。したがって同症候群患者の歯周病が同年代の非ウェルナー症候群患者に比べてより重症であれば、生体の老化に伴う何らかの要因が歯周病の進行を早めたものと考えられる。この様な背景から本研究を計画した。 現時点で検診が可能であった症例は3例であった。いずれも40代後半から50代であり、非ウェルナーの70代から80代に相当すると考えられた。なお、無歯顎者はいなかった。平均骨吸収率、歯肉出血歯数あるいは平均ポケット長はいずれも比較的低い値を示した。また喪失歯数は平成17年度歯科疾患実態調査による70代あるいは80代の喪失歯数と同程度、あるいはむしろ少ないという結果であった。 以上から、ウェルナー症候群患者において歯周病は見られるものの非ウェルナー患者と比較して著しく進行しているケースは見出せなかった。すなわち、ウェルナー症侯群が歯周疾患を亢進させる要因になる可能性は低いと考えられる。また、この結果より、高齢者に見られる歯周疾患による高度な組織破壊は、生体の老化そのものがその進行促進因子として働いた結果と云うよりも、むしろ慢性的に組織破壊が進行し蓄積した結果である可能性が高いと考えられた。
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