本研究では、歯周病原性細菌が産生する短鎖脂肪酸の一つである酪酸に対するT細胞応答に歯肉線維芽細胞(GF)がどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的としている。今年度は、1)酪酸が誘導するT細胞の細胞死に及ぼすGFの影響、2)酪酸がヘルパーT細胞のサイトカイン産生に及ぼす影響について検討した。 Jurkat T細胞の酪酸依存的な細胞死は正常歯肉線維芽細胞(HGF)との付着によって抑制されるが、酪酸感受性の高い歯周炎患者由来線維芽細胞(IGF)では抑制されないことが示唆された。また、IGFではHGFに比べて、酪酸処理Jurkat T細胞の付着率が低く、付着したT細胞のアポトーシス抑制作用も低かった。この細胞死抑制効果の違いは、細胞外マトリクスやサイトカインの発現差を反映していることが示唆された。 マウス脾臓細胞からin vitroで分化誘導して得られたTh1、Th2およびTh17サブセットにおける酪酸依存的な細胞死と、酪酸がサイトカイン産生に及ぼす影響について検討した。各濃度の酪酸存在下、24時間、抗CD3抗体でTh1、Th2、Th17を再刺激した。Th2によるIL-4産生は1.25-5 mMの酪酸添加によって濃度依存的に強く抑制された。一方、Th1によるIFN-γとTh17によるIL-17Aの産生は2.5-5mMの高濃度において抑制されたが、1.25mMでの産生はコントロール群よりも上昇した。さらに、0.3-1.25 mMの濃度の酪酸では死細胞の割合に顕著な増加は認められなかった。一方、Th2によるIL-4産生は濃度依存的に抑制され、Th1によるIFN-γとTh17によるIL-17Aの産生は上昇した。こうした酪酸のサイトカイン産生への影響は、フローサイトメトリーによるサイトカイン産生細胞の割合、ThにおけるサイトカインmRNA発現の解析でも同様に認められた。
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