研究概要 |
臨床研究から、口臭の値と歯周病の進行度に関連があることが報告されている。昨年度の結果から、ヒト歯肉溝浸出液に存在する同程度の口臭起因物質H2Sをラット歯肉溝に塗布することでラット歯周組織に破骨細胞の活性化がみられ、歯槽骨吸収が促進される可能性が示唆された。Lipopolysaccharide(LPS)も同様に歯周病の進行において重要な役割を果たすといわれている。しかしながら、H2SとLPSとの複合作用についての報告はほとんどない。そこで、本研究の目的はラット歯槽骨におけるH2SとLPSによる複合作用を比較検討することとした。 Wistar系雄性ラット28匹を4群[実験群と対照群]に分けた。実験群では両側上顎第一臼歯口蓋側歯肉溝に、H2SのドナードラッグであるNaHS群、LPS群、NaHSおよびLPSの複合群に分け,それぞれ溶液を塗布した。また対照群は無処置とした。過去の研究から1日後が、最も歯周組織に影響を及ぼすことから、塗布1日後に屠殺を行った。歯周組織の形態分析を行うため、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色、RANKL抗体と酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRAP)による二重染色およびTNF-α抗体による免疫染色を行った。またTNF-α、RANKL、high mobility group box-1(HMGB-1)1、toll-like receptor(TLR)2、4の遺伝子発現を評価した。 組織学的分析では対照群において病理学的変化は認められなかったが、塗布した群では接合上皮と結合組織に炎症性細胞浸潤が認められた。どの群においてもセメントエナメル境(CEJ)から歯槽骨頂までの距離には有意な差は認められなかった。NaHS、LPS、複合群では、対照群に比べTNF-α、RANKL、TLR4の遺伝子発現が高かった。しかしTLR2においては、NaHSと対照群では差は認められなかった。また複合群におけるTRAP陽性細胞数は、他の群よりも有意に高かった。 NaHSとLPSは、ラット歯周組織においてTNF-αと破骨細胞の分化に複合作用があった。そしてNaHSは、TLR2ではなくTLR4を介してLPSが誘発するTNF-αと破骨細胞の分化に増強作用があることが示唆された。
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