研究概要 |
唾液腺に関連した疾患においては、口腔内の症状として口腔乾燥を呈し、1)嚥下困難、2)う蝕や歯周病の進行助長、3)口臭の一因、4)口腔を介した感染症の誘発を引き起こす。口腔乾燥の原因は、加齢にともなった唾液腺萎縮による機能低下、薬剤による唾液の分泌低下、自己免疫疾患に関連したものなどが挙げられる。これら原因を根本的に改善するためには、機能的な唾液腺の再生や賦活化をおこなうことが有効であると考えられるが、現状では不可能といわざるを得ない。 我々は、包括的な遺伝子発現のスクリーニングを器官培養唾液腺を用いることで実施し、分岐形成に重要な因子の同定をおこなった。さらには、個々の因子について、その分子シグナルの解明を行った。 1)PDGF添加による唾液腺分形成促進メカニズムの解明 PDGF-AAおよびPDGF-BBを唾液腺の器官培養系に添加することで、その分岐を促進した。この分岐促進は,細胞間のカルシウムやIP3の輸送に係わるギャップ結合の阻害剤により完全に抑制された。これは上皮細胞におけるFGF受容体の活性化の抑制に起因することが判明した。 2)PDGFによるFGF発現制御に関わる分子シグナルの同定 PDGF刺激により、唾液腺の間葉組織におけるFGF7およびFGF10の発現が誘導され,従来から頭部神経堤細胞(唾液腺上皮の周囲に集積する)のマーカーとして同定されていたPDGF受容体を介したものであることが示唆された。次に我々は、PDGF受容体を介したシグナルの同定と、転写レベルでのFGF7およびFGF10の発現制御機構を解明するために,MAPK経路の解析を試みた。その結果,発生唾液腺へのPDGF刺激によりERK1/2のリン酸化が認められ,唾液腺分岐が促進されたことから,上皮細胞におけるMAPK経路の活性化が,唾液腺分岐に関与していることが示唆された。
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