研究概要 |
病院入院中または介護施設入所中の口腔ケアを希望する高齢者133名を対象に口腔ケア実施前の細胞を検索し評価を行う目的で下顎左側歯肉の口腔擦過細胞診を行い,Papanicolaou染色およびPeriodic acid-Shiff染色を実施した。口腔癌,唾液腺疾患,頭頸部領域の放射線治療既往者は対象から除外した。Papanicolaouの分類でClass IIは75名で56.4%であり,そのうちカンジダ菌が観察された症例は,58名で77.4%であった.細胞所見で細胞に強い変化を認めた例では,カンジダ菌が菌糸状構造を示し,細胞間や細胞集塊の中に菌糸を伸ばして細胞にカンジダ菌が貫らぬいているような像や細胞質自身がしわ状を呈し核周囲明庭が認められた.カンジダ菌は口腔内に常在しているといわれるもののどのように口腔内の細胞に影響を及ぼしているか未だ不明な点が多い。そこで,口腔ケアの評価に考慮すべきかどうかを検討する目的で口腔の扁平上皮細胞とカンジダ菌との形態学的検討を実施した. 口腔の白板症治療を目的に切除した歯肉組織の中にカンジダ菌を認めた組織のもどし標本を作製し,透過型電子顕微鏡にて観察を行った.細胞間にはデスモゾーム結合が見られ,その細胞質内には中間フィラメントが多数観察され,その中心部には厚い細胞壁を有する菌糸型のカンジダ菌と思われる物質が観察された.以上から,口腔環境の変化から何かしらの細胞の変化によってカンジダ菌が細胞に貫通した可能性が推察された.通常の光学顕微鏡観察結果から,細胞に変化が生じていることから,カンジダ菌の貫通が,細胞に何かしらの新たな変化を起こしている可能性が考えられた. 来年度は,高齢者,特に口腔乾燥や全身疾患などの様々な口腔環境や全身状態を伴っている方での口腔内扁平上皮細胞とのカンジダ菌との関連,また,カンジダ菌の酵母型と菌糸型での細胞への影響などを検討し,より詳細な口腔ケア評価法の確立を継続していく。
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