本研究の目的は、がん化学療法を受ける肺がん患者のストレス推移とその関連因子を明らかにすることである。ストレスの評価には、客観的指標として唾液(唾液中バイオマーカー)、主観的指標として質問紙(日本語版POMS短縮版)を用いた。本年度は、1.初回がん化学療法を受ける入院中の肺がん患者(治療群)15名、2.治療群と同等の年齢層で、がんと診断されていない者(対照群)10名のデータを収集した。治療群はがん化学療法前から2週間後まで定期的に唾液採取および質問紙調査を、対照群は唾液採取のみを1回行った。その後、治療群10名の唾液中バイオマーカー(唾液中α-アミラーゼ濃度、コルチゾール濃度、S-IgA濃度)を測定し、各バイオマーカーの経時的変化、およびPOMS短縮版との関運について検討した。結果、経時的変化についてはいずれのバイオマーカーにも有意差はみられなかったが、唾液中コルチゾール濃度とPOMS短縮版の下位尺度である「怒り一敵意」「混乱」の2尺度に有意な正の相関がみられた(r=0.4、p<0.05、r=0.4、p<0.05)。がん化学療法を受ける患者は嘔気や脱毛などの化学療法の副作用を心配している。それに加え、初めて化学療法を受ける状況下であったことから、治療により当惑したり入院環境におかれてイライラが募ったりしたと考えられた。ストレスの経時的変化については個人差があり、一定の傾向は見出されなかったが、今後目標数に向けデータ収集を継続し、分析・検討していく予定である。
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