がん化学療法目的で入院中の肺がん患者28名を対象に、化学療法前後でのストレス変化を唾液中バイオマーカーおよび質問紙で調査し、唾液を用いたストレス評価が有用であるか検討した。また、ストレスとQOLの関連、ストレスに影響を与える因子についても分析した。 1)対象者の属性 対象者は、男性19名、女性9名、平均年齢63.4±15.1歳であった。化学療法後7日目までの副作用として、倦怠感が7名、食欲不振が10名、嘔気が4名の対象者にみられた。 2)化学療法前後におけるストレスの変化 ストレス評価指標として、唾液中コルチゾール・分泌型免疫グロブリンA(以下、s-IgA)、日本語版POMS短縮版を用いた。結果、唾液中s-IgA値が化学療法前から7日目にかけて有意に上昇し、POMSの下位尺度「緊張-不安」が有意に低下した(P<0.05)。唾液中s-IgAは快適・リラックス下で上昇するといわれていることから、化学療法前の治療に対する不安や緊張の感情が7日目にかけて低下したことによりIgAが上昇したと考えられた。また、ストレスの程度に性別、年齢、副作用の有無による差はみられなかった。 3)ストレスとQOLとの関連 QOL評価は肺がん患者特異的QOL尺度であるFACT-Lを用いた。FACT-Lは得点が高いほどQOLか高いことを示す。結果、唾液中コルチゾールとFACT-L総得点に有意な負の相関がみられ(r=-0.4、P<0.05)、ストレスが高いほどQOLが低いことが示唆された。 唾液採取は入院中のがん患者にも低侵襲であるため、唾液によるストレス評価は有用であることが示唆された。また本研究結果より、過度のストレスはQOLの低下をまねくおそれがあることから、ストレス軽減をはかる看護ケアを提供する必要性が改めて確認された。
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