昨年度、LeventhalらのCommon Sense Modelが、慢性疾患患者の行動を規定する直接の要因として患者の病気認知と感情、自己認識を挙げ、さらにそれらに影響を与えうる要因として自己の体験や、社会的、環境的要因までをも包含している点で、患者の自己管理行動を包括的に理解する上で、複数ある健康行動理論の中では最も優れていると考えられたことに基づき、本年度はこの理論の構成概念を測定するための日本語の尺度開発に着手した。特に、この理論の主要な概念である病気表象(illness representation)に着目し、これの測定尺度としてすでに海外で公表されているIllness Perception Questionnaire改訂版(IPQ-R)を基盤に開発することとした。IPQ-Rの原著者に連絡をとり、尺度の日本語版の作成の許可を得た。しかしIPQ-Rは、慢性疾患全般の病気表象を包括的に測定する尺度であるため、本研究が対象とする2型糖尿病患者にそのまま適用するのでは、感度が落ちる可能性が考えられた。そこで、2型糖尿病に伴う症状についての項目を洗練し、また、IPQ-Rでは単に"treatment"とされている疾患の管理方法についての項目を食事療法、運動療法、薬物療法に特定するなどの改変を行い、日本語の尺度案を作成した。国内の経験豊富な看護学研究者1名に、翻訳の正確さ、および尺度全体の内容的妥当性を確認してもらい、糖尿病療養指導士1名と看護師長1名に表面的妥当性を確認してもらった。その上で、この尺度案を、医学分野に精通する第三者のネイティヴ・スピーカーに英語へ逆翻訳してもらい、現在は原著者に内容の確認を依頼しているところである。今後は、原著者からのコメントを踏まえて必要な修正を行った上で、実際の患者に試用して、妥当性・信頼性などの尺度性能の確認をしていくことが課題である。
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