研究概要 |
本年度は、LeventhalらのCommon Sense Modelの主要な概念である病気表象 (illness representation)の測定尺度であるIllness Perception Questionnaire改訂版について、日本語版の尺度性能の評価に着手した。ただし当初予定していた調査対象施設での調査が困難になったため、新たな施設で糖尿病を有する透析患者を対象とする計画に変更した。これに伴い、日本語版尺度の文言を、当初の2型糖尿病に特異的なものから、広く慢性疾患に適用可能なものへ変更した。原尺度は病名を差し替えることであらゆる慢性疾患に適応可能とされているため、上記の変更による尺度性能評価への支障はないと考えた。研究者が所属する機関の研究倫理審査員会の承認を受けたのち、A県内の2つの透析クリニックで調査を実施した。71名中56名から有効回答を得た。探索的因子分析の結果、日本語版は原尺度とは大きく異なる因子構造を持ち、抽出された因子はCommon Sense Modelの主要な構成概念としての解釈が困難であった。そこで、元の理論の構成概念の構造を保つために確証的因子分析を行った。全54項目中、統計的に有意でない因子負荷量を持つ変数など16項目を削除し、さらにいくつかの誤差相関を指定した結果、理論に忠実で解釈可能なモデルを得た(TLI=0.91,CFI=0.93,RMSEA=0.06)。各下位尺度におけるMcDonaldの構成概念信頼性指数は0.66から0.88であった。下位尺度間の因子相関は、おおむね良好な弁別的妥当性と収束的妥当性を示した。本研究の日本語版尺度は原尺度の短縮版とも言え、臨床現場での高い適用可能性が期待される。しかし今回の標本数は小さいため、より大きな標本数に基づく尺度性能の一般化が今後の課題である。
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