本年度の研究目的は、過活動性膀胱を有する高齢女性の排尿機能が生活行動にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることとした。生活行動の自立している高齢女性27名を対象に過活動膀胱スクリーニングを実施したところ、14名が軽度の過活動膀胱を有していた。排泄機能のパラメータとして尿意出現時の膀胱容量、排尿量、尿排出時間、残尿量および平均尿流率を用いた。生活行動への影響を評価ツールは過活動膀胱の評価に用いられるQuality of Life (QOL)尺度であるKing's Health Questionnaire (KHQ)および健康状態を包括的に測定するSF-36v2の2種類のQOL尺度を用いた。また被験者は飲水量、排尿回数を連続した3日間の自宅で記録した。 過活動膀胱ではない高齢女性13名(平均年齢66歳、平均体重51kg、BMI22)の日中の平均排尿回数は8±2回/日、夜間排尿回数は1±1回/日、水分摂取量は1522±620mlであった。一方、過活動膀胱を有する高齢女性14名(平均年齢68歳、平均体重57kg、BMI25)の日中の平均排尿回数は8±3回/日、夜間排尿回数:は2±2回/日、水分摂取量は1542±497mlであり、夜間排尿回数は過活動膀胱を有する高齢女性に有意に多かった。全ての排泄機能のパラメータは過活動膀胱群と非過活動膀胱群間に有意な差はなかった。KHQ得点は「身体的活動の問題」が過活動膀胱群10±16点、非過活動膀胱群0点であり過活動膀胱群が有意に得点が高く身体的活動が低下していることが判明した。「睡眠・活力」はそれぞれ27±27点、8±11点であり過活動膀胱群が有意に得点が高く睡眠の妨げや活力の低下を知覚していることが明らかになった。またSF-36v2では「心の健康」が過活動膀胱群45±16点、非過活動膀胱群57±9点であり過活動膀胱群の得点が有意に低かった。以上の結果から、過活動膀胱群は夜間排尿が身体的活動、睡眠・活力および心の健康に影響しているのでは、と仮定された。そこで、それぞれの相関関係を調べたがいずれの間にも関連は認められなかった。しかしながら、過活動膀胱を有する高齢者は夜間排尿の症状が強いため断眠により熟眠感を得られにくく、十分な休息を得られないことで疲労感が生じ日中の活力の低下に少なからず影響を及ぼしている可能性があると示唆された。
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