本研究の目的は、居宅で死を迎える者、重症度の高い疾病を持ち生活している者、障害を持ちながら生活している者の居住する場で行われる看護の場面で、訪問看護師が、どのような倫理的ジレンマを抱き、解決しているのか、また、訪問看護師がどのような倫理的判断を求められているのかについて明らかにすることである。平成21年度は、まず、訪問看護の対象となる地域在住高齢者が、健康や生活へどのような意識をもって暮らしているのか、また良い健康感へどのような要因が関連しているのかについてのニーズ調査を行う必要があると考え、地域在住高齢者を対象とした横断的研究を行った。対象は、疾病や障害をもつ者を含む長崎市A地区の65歳以上地域在住高齢者145名であり、構成的質問紙による訪問調査を行った。調査項目は人口社会学的要素、社会とのかかわり状況、健康や生活に関する意識のほか、「転倒や介護が必要になった場合に誰に相談するか」等である。分析対象者78名(調査参加率53.8%)のデータを解析した結果、地域在住高齢者の「良い」主観的健康感に関連していた要素は、性、年齢、教育年数、配偶者の有無、介護保険認定の有無にかかわらず、「人と会って話をする機会が多いこと」および「老人会地区区分」であった。転倒や介護が必要になった場合の相談相手に訪問看護師を初めとする保健医療福祉関係職者は選択されておらず、家族や親戚に相談する者が70%以上を占めた。以上の結果を踏まえ、22年度は、訪問看護師へのインタビュー調査を行う予定であるが、対象者をめぐる友人、家族、親戚といった人間関係についても、訪問看護師の倫理的ジレンマをもたらす場面やその解決への関連要素ととらえ、考察を行う。
|