本年度の目的は、認知症高齢者の転倒リスクマネジメントのための具体的なプログラム開発とパイロット介入研究であったが、様々な制約から介入研究までは到達せず、今年度は、マニュアルを作成するためのエビデンス構築のための詳細な分析、今後海外での比較研究に向けての準備等を実施した。 調査協力施設11施設から回答された1022件を対象に分析を行った。そのうち、実際の転倒に関するインシデントレポートは339件であった。 【認知症高齢者転倒リスクアセスメントスコアの汎用性について】 今回の対象者には、認知症ではないが、転倒リスクの高い高齢者が含まれており、スコアの分布は2相性になった。そのため、全数を対象とした転倒の予測精度は単数回転倒、複数回転倒とも高くなかった。認知症の診断を受けた対象者のみに絞り、ROC曲線に基づく構造方程式を作成、スコアを検討したところ、予測精度は80%程度に改善した。このスコアは元来認知症用に作成しているため、認知症のない高齢者には適用しないよう注意する必要がある。国際比較研究に向け、英文スコアと記入マニュアルを作成した。 【要望策の検討について】 予測される転倒と実際の転倒数の割合から転倒予防「成功群」と「失敗群」に分け、要因を分析した結果、成功群に有意に多かった予防策は、転倒予防運動、転倒アセスメントツールの利用、布団、安全用具の着用、転倒予防電子センサーの利用であった。失敗群に多かったのは、低床ベッド、安全ブレーキ付き車イス、靴の工夫であった。
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