今年度の実施内容は、昨年度実施した調査結果に基づくアンケート調査の実施、暴力の報告および情報集約への意識啓発を目的とした看護師向け研修会の開催の2点である。精神科看護師が患者から受ける暴力の認識と報告の判断に関するインタビュー調査から明らかにした概念枠組みを基に、暴力の認識の影響要因、報告の方法とその基準、報告の促進要因と阻害要因について質問紙調査を実施した。調査は、精神科看護師1441名を対象として、848部の調査票を回収した(回収率58.8%)。暴力の認識は、看護師としての経験年数、看護師・准看護師という取得資格の違い、性別などの影響を受けていた。例えば、経験年数が長いほど幻聴や妄想、認知症など精神疾患に起因する行動を暴力と認識しなくなっていた。暴力発生の報告として、インシデントレポートなどの書面による報告のほか、上司への報告、各勤務の申し送り、看護記録の記載などの方法が用いられていたが、報告書を記載する割合は、受診が必要となる怪我を負った身体的暴力(76.3%)、器物破損(62.0%)、身体的暴力でも傷が残らない場合(40.2%)、直接身体にあたらなかった場合(22.8%)、看護師自身が避けた場合(21.3%)など、状況によって違いがみられた。また、暴力の報告は業務に位置づけられている(64.9%)、一方で状況によって報告の判断が異なる(59.0%)、報告するか否か迷うことがある(56.2%)、暴力発生時の報告基準があいまい(51.6%)と感じていた。調査結果をもとに、精神科看護師を対象とした研修会で暴力の認識や報告について基準の一例を示しながら意識啓発を行った。医療施設において発生する暴力の再発を防ぎ、看護師の安全を守るために、暴力発生時の報告および情報集約を円滑にし、看護師が適切な支援を受けられるように研究成果を活用する必要がある。
|