本研究では、行動制限(隔離と身体拘束)を削減するのに重要な要素である看護集団の組織文化に着目し、その変革に向けたアクションリサーチを行っている。フィールドは、民間単科精神科病院の急性期機能を担う病棟である。 はじめに研究者は、対象集団の組織文化の構造をターゲットにしたフィールドワークを実施した。その結果、患者行動のコントロールと無力感回避という一方向的な行動様式が特徴的であり、その背景には調和を重んじる「同調性」と不確実性回避傾向の高さである「行動志向」に偏った価値観と、リーダーシップ不在による不安感や自己決定感の薄さによる無力感という情緒があることが明らかになった。その後、フィールドワークの内容を看護管理者へフィードバックし、話し合いを重ねた結果、新たなリーダー(病棟師長)が任命され、研究者との協働により組織変革に向けて動き出すこととなった。 変革に向けたアクションとして、コミュニケーションの閉鎖性を変革するために「自然体で話し合える」をリーダーのビジョンとして提示し、省察的学習を目的としたカンファレンスを開始した。当初は消極的な姿勢を示すスタッフも多かったが、徐々に変化がみられ、年度末にはスタッフ自らカンファレンスを活用する動きがみられている。同時に、現行の看護方式である機能別チームナーシングが業務中心の姿勢をシステムとして下支えしていると考えられたため、患者中心へと変革するためにプライマリーナーシングへの変更を行った。 このように、双方向性を重視した行動様式の獲得をアウトカムとし、「同調性・行動志向」から「多様性・省察志向」への、共有される価値観の変化に向けた介入を行っている。また、リーダーシップの再構築とスタッフの主体性を育む動機づけにより、共有される情緒は不安感・無力感から安心感・有能感へと変化しつつある。しかし、変革を進める過程で、変化に乗りきれないベテラングループと主体的に動き出す新人グループが解離する傾向にあり、その融合が課題である。また、カンファレンスが問題解決のための話し合いになることが多いため、省察的学習を促進するたあめファシリテーターの育成も課題である。 次年度は、病棟内でコアとなる特別チームを編成し、行動制限最小化に直接的に寄与する取組みに着手すると共に、行動制限施行量の比較に基づいた効果の検証を実施する予定である。
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