本研究では、精神科医療における行動制限(隔離と身体拘束)の削減を目的として、看護集団の組織文化の変革に向けたアクションリサーチを行っている。フィールドは、民間単科精神科病院の急性期機能を担う病棟である。 今年度は、病棟スタッフから協力者を募り、研究者と看護師長を含めた5名のチームで、行動制限の削減に直接的に寄与する取り組みに着手した。内容は、公衆衛生学的予防モデル(1次-2次-3次予防)の視点から研究者間で検討し、月ごとの行動制限量の可視化、5感を用いたリラクゼーション、行動制限の緩和に特化した定期的なカンファレンス、水中毒患者を対象とした協働型問題解決アプローチを実施した。病棟では、コアとなるスタッフが行動制限削減に向けた取り組みを開始することにより、周囲のスタッフの協力行動や医師-看護師双方の情報交換が増えるといった、スタッフ全体の意識変革に波及する効果がもたらされている。 今年度の行動制限量を、当該病棟における過去3年間の平均データと比較してみると、平均日数は隔離12.0日→9.9日、拘束6.4日→6.2日、施行割合は隔離5.6%→5.0%、拘束1.9%→1.9%、施行患者割合は隔離12.3%→12.8%、拘束8.2%→7.2%、施行開始割合は隔離16.5%→14.7%、拘束5.3%→9.1%という結果になった。施行開始割合の拘束の増加については、実数が少ないためその年の受け入れ患者の特性によって、データ変動の影響を受けやすいことが要因と考えられる。それを除いては、本研究の取り組みが、行動制限量の削減に対して、概ね肯定的な影響をもつことが示唆されたといえよう。 次年度は、今年度と同様の取り組みを継続すると同時に、今年度実施に至らなかった3次予防の視点に基づくディブリーフィングによるトラウマケアを実施する予定である。
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