本研究では、精神科医療における行動制限最小化を目的として、看護集団が共有する組織文化の変革に向けたアクションリサーチを行っている。研究者と病棟師長の協働によって、集団のもつ価値を同調性から多様性へ、動くことから考えることへ、組織感情を不安感から安心感へ、無力感から有能感へと重心を移動させることを意図した介入を行いながら、昨年度から病棟スタッフの中からチームを編成し、予防モデルを参考にしたプログラムを試行している。内容は1次予防としての行動制限量の可視化・マニュアルの整備、2次予防としての5感を通じたリラクゼーション等である。本年度は3次予防のアフターケアに取り組み、行動制限に伴って患者が抱くネガティブな感情を表現できるような関わりを行った。これは行動制限の期間や人数といった量的な削減だけでなく、心のダメージを最小化する取り組みである。患者は生活上の不快感や差恥心、医療者への不信感、見通しのわからない不安感、孤独感や罪悪感等を経験していた。アフターケアは、患者にとってのカタルシス効果をもたらすだけでなく、スタッフとの関係性を改善する契機になる可能性も示唆され、行動制限中の看護のあり方を見直すことにもつながっている。 今年度の行動制限量を昨年度と比較すると、平均日数は隔離9.9日→11.2日、拘束6.2日→6.2日、施行割合は隔離5.0%→9.1%、拘束1.9%→2.0%、施行患者割合は隔離12.8%→21.6%、拘束7.2%→7.6%、施行閣始割合は隔離14、7%→18.7%、拘束9.1%→5.6%という結果となった。今年度は隔離が長期化・増加する要因がいくつか重なったため削減効果を確認することはできなかった。スタッフの意識や工夫だけでは最小化を推進することが困難な状況が続いた時に、モチベーションをどのように保つのかが課題である。
|