介護保険施設で働く看護職が施設に潜在する倫理的課題をとらえて働きかけるためには、倫理的課題を敏感にとらえる道徳的感受性を備えていることが欠かせないと考えられた。しかし、看護職は日常の様々な問題を看護倫理上の課題ととらえる視点が弱いと指摘されてきたため、介護保険施設の看護職の道徳的感受性を高める倫理教育プログラムを開発することが必要と推測された。そこで、本研究の目的は、介護保険施設で働く看護職の道徳的感受性を高め、看護職が日常場面で生じる倫理的価値の対立状況を看護ニーズと認識できるように支援する倫理教育プログラムを開発することとした。 上記の研究目的を達成するために、平成22年度は介護保険施設の看護職が抱える倫理的ジレンマとその対処の特徴を把握するために半構成面接による質的研究を行い、平成23年度は前年度の質的研究のデータを基にして「介護保険施設で働く看護職の道徳的感受性尺度」を作成した。平成24年度は「介護保険施設で働く看護職の道徳的感受性を高める倫理教育プログラム」を作成し、看護職25名に対して試行した。倫理教育プログラムの効果を検討するために、その実施前後で「介護保険施設で働く看護職の道徳的感受性尺度」と前田らの「改訂道徳的感受性質問紙日本語版(以下,J-MSQと略す)」等で構成した質問紙調査を行った。分析方法は「介護保険施設で働く看護職の道徳的感受性尺度」と「J-MSQ」の全項目の合計得点および各下位尺度得点について対応のあるt検定等を行った。その結果、倫理教育プログラムの実施前後で「J-MSQ」に有意差は見られなかったが、「介護保険施設で働く看護職の道徳的感受性尺度」の2つの下位尺度で有意差がみられ(p<0.05)、今回作成した倫理教育プログラムは、介護保険施設の看護職の道徳的感受性を高める一定の効果があるのではないかと推察された。
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