本研究の全体構想は、認知症高齢者が自身の課題解決にかかわる意思決定の場に、現実的な形で参加できるための支援方法を確立することである。その第一段階として、本研究では、認知症高齢者の意思決定能力がどのように保持されているのかを、影響する要因とともに明らかにすることを目的としている。 平成22年度は、当初の計画に従って、認知症の方への面接調査を実施した。調査協力の同意が得られた特別養護老人ホームに居住する50人に対して行った調査結果から、意思決定するための機能的能力(「理解」「認識」「選択の表明」「論理的思考」)が認知機能障害の影響を受けて一様に低下するとみなすことはできないことを確認した。具体的には、認知機能の低下によって、情報を「理解」する能力は減少し、生活状況の「認識」が施設職員の客観的評価とずれること、「選択の表明」と「論理的思考」能力は回答を求められる設問や状況の影響を受けることが示唆された。この結果は、認知症であっても、認知機能の測定結果だけでは捉えきれない意思決定の力を保持している可能性をも示唆しており、能力評価の方法や環境調整を含めた意思決定支援に向けた取り組みをすすめる上で重要な資料となる。また、認知症の原因疾患による特徴をみたところ、本データでは異なる傾向を示さなかったが、今後も継続してデータを蓄積しながら、分析を重ねていく必要がある。
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