本研究の全体構想は、認知症高齢者が自身の課題解決にかかわる意思決定の場に、現実的な形で参加できるための支援方法を確立することである。その第一段階として、本研究では、認知症高齢者の意思決定能力がどのように保持されているのかを、影響する要因とともに明らかにすることを目的としている。 平成23年度は、当初の計画に従って、認知症の方への面接調査を継続しながら、認知症という病によって生じる影響を捉えるために認知症ではない高齢者への面接調査を実施し、これまでに蓄積してきた認知症の方のデータと比較した。認知症ではない高齢者(以下、対照群)は、調査協力の同意が得られた特別養護老人ホーム居住者12人、養護老人ホーム居住者20人、ケアハウス居住者4人で、合計36人であった。 なお、本研究では、面接調査によって、意思決定するための機能的能力(「理解」「認識」「選択の表明」「論理的思考」)を評価した。分析結果からは、認知症高齢者は対照群と比べて、意思決定に必要な情報を「理解」する能力と生活状況を「認識」する能力の減少が目立ったものの、「選択の表明」能力と選択に至る「論理的思考」能力については「理解」「認識」ほどの差を認めなかった。この結果は、意思決定のための4つの機能的能力が、認知症にともなう認知機能障害の影響を直接的に受けやすいものがある一方で、認知症の有無にかかわらず変化する側面をもつ可能性を示唆しており、認知症高齢者の特徴を正しく捉えるための評価方法や、どのような能力に注目して支援していくべきかを検討する上で重要な意味をもつ。
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