多数の粒子を用いた物理シミュレーションは、液体や分子モデルなどの詳細な挙動を再理でき、広く利用されている。しかし対象物の境界面(液面や分子の等電位面など)を表示するには、従来法では計算時間が膨大である。そこで、比較的安価に入手できるグラフィクスハードウェア(GPU)を用いて、即座に境界面を表示する手法を開発してきた。昨年度に当初の目標である「100万オーダーの粒子からなる曲面を、対話的な速度で描画する」をほぼ達成できたため、他の研究目標として挙げた、「粒子群から滑らかな液面を抽出する」という手法の開発に取り組んだ。メタボールと呼ばれる陰関数曲面によって液面を表現すると、粒子分布の粗密に応じて、粒子に起因した細かな凸凹が液面に生じてしまう。提案した方法では、まず、各粒子の周囲の粒子密度より、しぶきか水面(水中)かを判定する。水面の粒子に関してはさらに、粒子分布から共分散行列を計算し、その行列に基づいてメタボールの密度分布を液面に沿うように変形させる。この変形によって、粒子に起因して液面に生じる凹凸が著しく低減される。この計算において、比較的計算負荷の高い固有値・固有ベクトルの計算は不要である。この成果を国内ワークショップにて発表した段階では2次元の実装のみであったが、3次元のハードウェア実装により、高速な処理が期待できる。以上により、従来長く問題とされてきた、粒子群からの滑らかな液面抽出について、現実的な解法が得られたと言える。
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