平成21年度にアイトラッカーを用いて計測した、発達初期の予測的行為として乳児の視線行動に関して、データ解析および論文作成をおこない、現在、学術雑誌に投稿中である また、平成22年度は、乳児のワーキングメモリ機能および予測機能に関して、聴覚的情報と視覚的情報の統合過程を検討した。生後10ヶ月齢の乳児を対象とし、聴覚的に呈示される音階情報が、視覚場面における乳児の視覚的探索行動に与える影響について、アイトラッカーを用いて計測した。その結果、聴覚的情報に応じて、視空間的な探索位置が異なることが明らかにされた。このことは、乳児が聴覚的情報をもとに、異なるモダリティ(視覚)における行動を調整していることを示唆するものであり、乳児の日常生活における情報の保持とその利用のメカニズムを解明したものと位置づけられる。 さらに、平成22年度には、乳児のワーキングメモリ機能、予測機能、および抑制機能に関して、身体運動の観察から得た知見が、2本の学術論文として公刊された。いずれも生後3ヶ月の乳児において、環境から得られた情報と自己の行動を統合的に制御していることを示すものであり、発達初期においてすでに、情報を生かした未来志向的な行動や、場面に適応した能動的抑制行動が確立されていることを示唆する論文である。 予測過程中の脳機能メカニズムに関しては、NIRSを用いた計測を実施し、生後3ヶ月児を対象にしたシーン知覚における聴覚情報の効果に関する論文、および生後6ヶ月児を対象にしたシーンの複雑性の多寡と脳血管内における酸素化ヘモグロビンの相対濃度変化の関係性に関する論文を、学術雑誌に投稿中である。
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