アミロイドβが長期神経活動に及ぼす影響の理解を進めるために、研究初年度である21年度は、実験系の構築と解析法の検討を行った。具体的には、他の神経細胞からの入力がない単一神経細胞の自発活動を長期間計測できる実験系の構築と得られた自発活動の時系列データを定量的に評価できる解析法の検討を進めた。1神経細胞の自発活動を長期間計測するために、非侵襲に計測できる平面多電極アレイ細胞外記録法と1細胞単位で細胞の空間配置を制御できるアガロースゲルマイクロ加工技術を組み合わせた実験系を構築した。その結果、単一神経細胞(ラット海馬初代培養細胞)の1ヶ月以上の長期培養と自発活動を計測することに成功し、(i)数秒から数十秒間隔で一過的に複数のスパイクを発するバースト発火細胞、(ii)高頻度(1Hz以上)でトーニック発火する細胞(GABA neuron)、(iii)バースト発火とトーニック発火が混同した細胞など1神経細胞固有の発火パターンを検出した。次に、得られた非定常的な時系列データから長い時間スケールでの特徴を表す情報を抽出する解析法を検討した。具体的には、ズパイク間隔のゆうぎが持つ長期相関性に着目して、長期相関性をスケーリング指数αで特徴づけるDetrended fluctuation analysis(DFA)を用いた。その結果、単一神経細胞が示すいずれの発火パターンにおいても10^2<n<10^<2.5>spikes (bursts)付近を境に、短時間スケールと長時間スケールの指数がcrossoverする現象が見られ、長い時間スケールにおいて、べき的な相関が検出された。このような結果から、非定常な振る舞いをする発火タイミングにおいて、単一神経細胞は短い時間スケールでは無相関を示すが長い時間スケール(数百スパイク以上)で見ると相関性を持つことがわかってきた。次年度は、単一神経細胞の自発活動を長期計測する系と時系列データを定量的に評価する上記解析手法を用いて、アミロイドβペプチドが及ぼす神経細胞機能への影響を評価したいと考えている。
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