アルツハイマー病の原因因子の一つとして、凝集したアミロイドβペプチドが脳内に沈着することが考えられている。しかしながら、アミロイドβが及ぼす神経回路活動への影響は十分解明されていない。本研究では、毒性が高いとされているアミロイドβ1-42を用いて、長期間の神経回路活動に及ぼす影響および保護作用を示す物質の探索を目指して研究を進めてきた。研究計画2年目である平成22年度は、ラット海馬初代培養細胞に及ぼすアミロイドβ1-42の影響および抗酸化薬として多数の分子を阻害することが知られているチモキノンによるアミロイドβ1-42毒性の保護作用を検討した。神経活動の記録は、神経ネットワークの活動を長期間多点で計測できる多電極アレイ計測システムを用いた。多電極アレイ基板上に培養した培養2週間目のラット海馬神経回路にアミロイドβ1-42を10μM投与し、神経回路活動の自発活動を3日間連続計測した。その結果、24時間後から徐々に神経回路活動の活動頻度が低下し、72時間後に活動が消失する現象および神経細胞のアポトーシスが観察された。次に、アミロイドβ10μMとチモキノン100μMの同時投与を行った結果、72時間以上においても神経活動が消失する現象およびアポトーシスは見られなかった。チモキノン100μMのみの投与では活動頻度の低下は見られなかった。これらの結果により、チモキノンがアミロイドβペプチドの毒性を阻害した可能性があると考えている。この成果は、日本化学会にて発表した。
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