超音波が物を押す現象(音響放射圧)を利用して触覚を提示するディスプレイの開発を進めている。昨年度の調査結果にもとづき、本手法の応用範囲を広げるため今年度は以下の項目に取り組んだ。 1.放射圧に伴う気流の影響の低減 本手法では圧力の他に気流も生じ、触感を意図したとおりに提示する妨げとなる。この影響を低減するため、薄いゴム手袋を装着する方法と、キメの細かい布で超音波を通しつつ気流を遮る方法を比較した。放射圧の変調周波数を感じ分ける実験を行ったところ、布で遮る方法のほうが良い成績となることがわかった。現状、気流の除去は30%程度にとどまっている。超音波を減衰させることなく気流を効率よく除去する方法が今後の課題である。 2.皮膚表面の振動計測 本手法は超音波の時間波形だけでなく刺激位置を操ることもできる。提示される触感を評価するためには、皮膚表面の振動だけでなく刺激位置についての情報も必要である。昨年度は、指に装着したゴムチューブの振動をマイクロフォン1個で計測するセンサを試作した。このセンサでは位置についての情報は得られない。本年度はマイクロフォン2個をチューブ両端に取り付け、振動の到達時間差から刺激位置を推定するセンサを考案した。 3.空中インタフェース 物体と接触しなければ発生しない触覚を、空中において非接触で提示できる点も本手法の利点である。近年、空中で手を動かすことでコンピュータへの入力を行う技術が盛んに開発・発表されている。それは便利ではあるが、フィードバックが視覚・聴覚に限られている。本手法を用いて触覚フィードバックを追加することで入力が行われたことやその瞬間が手指に感じられるようになり、操作感の向上が期待できる。
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