本年は昨年に引き続き、調査紙調査およびインターネット上に存在する再生医療に関する言説の分析を行った。調査紙調査では、文部科学省再生医療の実現化プロジェクトにおいてiPS細胞研究推進の4大拠点のひとつとして設定される東京大学医科学研究所、および慶応義塾大学医学部に所属する研究者らに対する調査を行った。また、対照となる公衆には慶應義塾大学および中央大学、明治大学の文科系学生に対する調査を行った。また国内における幹細胞研究の現状を調査するため、日本分子生物学会、およぶ日本再生医療学会でインタビュー調査を行った。こうした研究から明らかとなったのは、1)インターネット上では、さまざまな日本の大学・公的機関が再生医療やiPS細胞に関する情報提供サイトを設置しているにもかかわらず、blogなどではasahi.comなどのニュースサイトを参照元にしており、一次情報に近いサイトは情報のハブとなりえていないこと、2)専門家層と非専門家層の間で最も大きな意識の乖離は、iPS細胞などの多能性幹細胞から生殖細胞の分化誘導研究を行うことに対する是非への相違であり、非専門家層が感じるような違和感は、専門家層の間では薄いということであった。こうした知見を踏まえ、専門家と市民との間でどのような協働関係を構築するかについて、新たに大阪大学コミュニケーションデザインセンター・平川秀幸准教授、東京大学法学部・城山英明教授らとの研究準備を行っており、今後は欧米で定着しつつあるテクノロジーアセスメントの応用可能性について検討していく予定である。
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