本研究は、e-learningを用いて通信制大学として成功した早稲田大学e-schoolの設立当初のメンバーをインタビュー対象者として、その実態と課題、成功要因を組織内部者の視点により明らかにするものである。1)経営層(教員):e-school教育の狙い、組織運営上の問題、2)スタッフ層・実務層(職員・教育コーチ):授業運営等の問題、3)学生層(卒業生):学生側からみた問題の別に、TOC (Theory of Constraints)理論を用いて、問題の中核的な要因と成功要因を検討する。 本年度は、資料収集とインタビュー調査の第1段階を終了した。データ分析の結果、経営層の教員が認識している課題は、教育課程の年次に合わせて時系列により変化していた。とりわけ、授業・カリキュラム上の課題として挙げられたものは、演習型の授業の充実(開発・研究)であった。講義型授業は成功と認識されている一方、演習型授業(ゼミ・卒業研究)の課題は残ったままであると認識されていた。つまり、講義型授業は学生が受動的であっても成立するが、演習型授業は学生自身が能動的に学ばないと成立しない。e-learningの学生が孤立しやすく、雑談が成立しにくいという傾向を解消する仕組みを更に充実させる必要があるとされていた。また、授業運営等の工夫や知恵が、個別の教員レベルに留まる傾向があるため、組織レベルでいかに共有し、蓄積するかという課題認識もあった。組織運営上の主な成功要因としては、社会的ニーズに迅速に応えたこと、また、通学制と通信制を兼務する教員の負担を最小限に抑える仕組み作りであったと認識されていた。 今後は引き続き職員、教育コーチ、卒業生にインタビューを行う。本事例の問題点・成功要因を可視化することで、本研究がグローバル化社会における日本の高等教育の新しい組織運営に何らかの示唆を与えうると考えられる。
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