本研究は、e-leamingを用いて通信制大学として成功した早稲田大学e-schoolの設立当初のメンバーにインタビュー調査を行い、組織内部者の視点から課題と成功要因を明らかにする事例研究である。教員、職員、教育コーチ、卒業生の13名を対象者とし、それぞれ1)経営層、2)スタッフ層・実務層、3)学生層の別に、e-school教育の狙い、組織運営上の問題、授業運営等の問題、学生側からみた問題等について聞き取りを行った。インタビューデータはTOC(Theory of Constraints)を用いて分析し、問題の中核的な要因(課題)と成功要因を明らかにした。その結果、インタビュイーが認識している問題は、教育課程の年次に合わせて時系列で変化しており、特に組織運営等のソフト面の課題3点が明らかになった。1点目は、e-learningでの学びに関するもので、具体的には講義、実験、フィールドワーク、ゼミ、卒論といった、学びのスタイルの違いとオンキャンパス(対面)かオフキャンパス(非対面)かといった、コミュニケーションモードの違いをいかに工夫して豊かな学びを提供するかという課題である。2点目は、教員(学部)の認識に関するもので、具体的には学部の共通認識形成の困難さや、教員の従来(通学制)の授業スタイルをいかに通信制にマッチさせるかという課題である。3点目は、学生を取り巻く環境に関するもので、具体的には社会人学生の様々なバックグラウンドに対応し、多様な要求水準の高いニーズ応え、効果的な授業デザインをいかに作るかという課題である。また、成功要因は、主に7つの領域において明らかになったが、とりわけ重要な要因は、学生、教育コーチ、職員、教員の人と人の繋がりをいかに作るかという点や、授業をしながら現実的な運用システムを再構築して運営するといった、学生のニーズに対応する迅速さが明らかになった。
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