研究概要 |
本研究はこれまで理論基盤が確立されていながらも制御点が膨大になることから実用に至っていなかったホイヘンスの原理に基づく波面合成による立体音響再生に対して音場の1bit量子化を核とする手法を導入し,超多チャンネル録音・再生という新しい技術を構築しようというものである。具体的には本研究期間内には極めて指向性が鋭い超音波スピーカアレイを制御しそれら反射波から実用的に壁面各点から再生波を得る手法の確立を目指している。これまで研究を進めてきた高速1bit信号処理は極めて標本化周波数が高く,またビットストリームそのものに音響信号のスペクトラムが含まれることからスピーカアレイ制御に際しDAコンバータやアップサンプリングを必要とせず簡潔かつ小規模な構成とすることができる。また信号が1ビットであることから最小ビット幅で並列処理を行うことができる。 平成21年度は基礎理論の検証および翌年度に向けた実験器具の作成として超音波信号に適した高速1bit信号の量子化制御及び各スピーカの個別位相制御アルゴリズムの設計,それらに基づいた576チャンネル個別駆動の超音波スピーカアレイの試作を行った。それらを用い本手法により任意の,あるいは複数の音源を各方向に超指向性出力が可能であることをレーザドップラ振動計による観察等から明らかにした。それら成果の一部を日本音響学会春季発表会で報告している。これらの結果は壁面にスピーカを敷き詰めることなく,ある点から様々な箇所へ音場を投影できる可能性を示しており音響プロジェクターとでもいうべき極めて新しい立体再生手法の実現の足がかりとなりうる。
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