研究概要 |
本研究は3次元音場の記述と伝送を目的とし極めて制御点数の多い,いわば「超多チャンネル信号処理」とでもいうべき手法の確立を目指すものである。ホイヘンスの原理に基づけば閉曲面上約1cm四方毎に制御点を設置することにより波面合成法を用いて任意の3次元音場を再生することが可能であるが,規模や設置密度から実現は困難とされてきた。本研究はこのような問題に対して超音波スピーカやMEMSマイクロホン,高速度カメラといった新しいトランスデューサに,ディジタル信号処理でありながらいわゆるDA変換器を必要としないなどアナログ信号との親和性が高い高速1ビット信号処理を導入し解決を図る。平成23年度は前年度までに製作したシステムの実験・考察を行った。超指向性スピーカとして利用されている超音波スピーカをセラミック振動子576個で構成し,高速1ビット信号処理により各素子を個別駆動して任意の方向,本数の出力が可能なシステムを実現した。指向性制御や多方向制御,焦点制御,画像処理と組み合わせた人間の両耳など特定の箇所への集中制御等の実験を行い実用に供することを示した。本システムは個々の素子が直径1cmと充分に小さく,また超音波スピーカは超指向性出力であるが故に壁面からの反射音が到来音の様に感じられることが知られており「音響プロジェクタ」のような新しい3次元音場再生技術が期待できる。また本システムに用いる収録系としてMEMS技術を用いた超小型マイクロホンを1cm四方に計1024個配置した全チャンネル個別記録可能なアレイを作成し,指向性制御や波面の可視化を行った。またマイクロホンの音場への影響がしばしば問題となることから高速度カメラを用いた方法を提案・実験した。空気中に満たした油滴を撮影し画像解析することにより通常の音圧のみではなく方向成分も含めた粒子速度分布を充分な細かさで解析することに成功している。
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