研究概要 |
本研究では、多くの神経変性疾患に共通してみられ、その発症メカニズムとの関連性について不明な点が多い病態としてエネルギー代謝異常に着目し、逆向き遺伝学が最も発達した多細胞生物であるショウジョウバエを用いて解析モデルを作製し、神経変性発症に関わる普遍的な分子機構を探ることを目的とする。本年度は、ヒト神経変性疾患モデルとして、in vivo RNAiにより組織・時間特異的に神経変性疾患責任遺伝子をノックダウンすることが可能なトランスジェニックショウジョウバエ系統の作製を行った。 パーキンソン病、及び筋萎縮性軸索硬化症2型(ALS2)の責任遺伝子のショウジョウバエホモログdparkin、及びdals2について、UAS配列を含むプロモーターの下流に責任遺伝子cDNAをinverted repeatに連結したP-elementベクターをショウジョウバエゲノム上に挿入した系統(RNAi系統)を確立した。これらのRNAi系統と神経組織特異的にGAL4タンパク質を発現する系統(elav-GAL4系統)を交配し、F1世代において、GAL4/UASシステムを用いたin vivo RNAiを行い、その病態表現型(原因遺伝子の機能抑制による致死性、行動異常など)を解析した。その結果、神経特異的dparkin,及びdals2ノックダウン疾患モデル系統(elav>dparkin-IR、及びelav>dals2-IR)では、コントロール系統(elav>lacZ-IR)と比較して、有意な寿命の短縮、及び行動量の減少が認められることを明らかにした。現在、さらに神経・筋肉の変性、異常蛋白の蓄積、神経細胞死、ストレス感受性、エネルギー代謝変化などについて組織学的、形態学的、生化学的解析を行い、対応するヒト神経変性疾患の病態を再現しうるショウジョウバエの疾患モデル系統の確立を進めている。
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