研究概要 |
平成21年度の研究では,アルツハイマー病患者に対する筋力測定における筋出力様式の特徴を明らかにすることを目的とした.被験者として,アルツハイマー病患者8名を対象とした(男性2名,女性6名,平均年齢86.9歳).被験者は可及的に速くかつ強く膝を伸展するよう教示された.筋力計測は3分以上の休憩を挟んで3回実施し,それを1パッケージとして1日に2パッケージのテストを1週間の間隔を空けて2日間実施した.筋力評価には,収縮開始からの時間間隔の増加のおけるforce-time curveスロープ(rate of force development : RFD)の最大値と随意最大筋出力(maximum voluntary force : F max)を用いた. RFD最大値における級内相関係数は,0.929-0.801だった.Fmaxにおける級内相関係数は,0.979-0.885だった.RFDとF maxの相関係数は,収縮開始からの時間が増加するに従って増加した.しかし,収縮開始から250ms未満の時間間隔において有意な相関は認められず,350ms以降に有意な相関を認めた(r=0.38-0.91). 以上の結果より,アルツハイマー病患者におけるRFDおよびMVCに基づいた筋力計測は良好な被験者内再現性を有していると考えられた.ただし,健常者においてRFDとMVCに強い相関が認められるとされている収縮開始から250msの時間間隔において有意な相関は認められなかった.RFDに影響を与える因子として,筋線維タイプとミオシン重鎖の組成筋断面積,筋腱複合体の粘弾性,筋に対する神経駆動などが知られているが,アルツハイマー病患者の筋出力においては健常者と異なる生理学的背景が存在する可能性が示唆された.
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