超高齢化社会を迎える本国においては高齢者の増加とともに排便障害は大きな問題の一つとなりつつある。しかし、排便運動を制御する神経回路の仕組みについて殆ど解明がなされていないため、効果的なリハビリテーションの開発には至っていないのが現状である。本研究は蓄便・排便運動に関与する外肛門括約筋(EAS)を支配する運動ニューロン(MN)の軸索側枝の機能を解明し、EAS MNがEASの運動を制御する仕組みの一端を解明する事を目的としている。 先行研究ではEAS MNには軸索側が存在する事が明らかにされ、その軸索側枝はEAS MN自身に接続するが介在ニューロンに接続する事はないと考えられてきた。本研究では成ネコを対象にEAS MNの軸索側枝から興奮性入力を受ける介在ニューロンの存在について詳細な電気生理学的解析を行った結果、オヌフ核の周囲に軸索側枝から興奮性入力を受ける介在ニューロンを発見した。この発見は今まで想定されていなかったEASの軸索側枝の新たな機能の存在を示すものである。これらの介在ニューロンの発火パターンや興奮性入力の特徴は下肢の運動ニューロンの軸索側枝から興奮性入力を受けて発火するレンショウ細胞と類似性が認められた。レンショウ細胞はMNの軸索側枝から興奮性入力を受けて連続発火する抑制性の介在ニューロンで、単シナプス性に運動ニューロンを抑制する事が知られている(反回性抑制)。そこで、PMNから細胞内記録を行い反回性抑制が観察されるか否か検討したが、PMNから反回性抑制による抑制性シナプス後電位を観察する事はできなかった。したがって、本研究によって発見された介在ニューロンはレンショウ細胞以外の未知の介在ニューロンである可能性が高い。しかし、細胞内記録を行ったPMNの数が十分な数ではないため、より多くのPMNから細胞内記録を行い介在ニューロンが未知の神経細胞であるのか慎重に判断して行きたいと考えている。
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