平成21年度に行った研究によって、過去には存在しないと考えられてきた外肛門括約筋を支配する運動ニューロン(EAS運動ニューロン)から興奮性のシナプス入力を受ける介在ニューロンを発見した。平成22年度はこれらの介在ニューロンが脊髄に広く分布するレンショウ細胞であるのかEAS運動ニューロンから細胞内記録を行って検討した。レンショウ細胞は運動ニューロン軸索側枝から興奮性のシナプス入力を受け発火し、運動ニューロンに抑制性のシナプスを形成するという特徴を有する(反回抑制)。従って、前述の介在ニューロンがレンショウ細胞であればEAS運動ニューロンから細胞内記録を行った際に反回抑制によるIPSPが観察されるはずである。しかし、実験の結果、EAS運動ニューロンから反回抑制が観察されることはなかった。以上の結果はEAS運動ニューロンは上下肢を支配する脊髄の運動ニューロンと同様に軸索側枝を出し、その終末の一部は周囲の介在ニューロン興奮性のシナプスを形成するが、興奮性のシナプス入力を受ける介在ニューロンはレンショウ細胞以外のニューロンであることを示唆するものである。そもそも、外肛門括約筋は解剖学的に上下肢を構成する筋と同じ横紋筋に分類されてきたために、その運動制御をおこなう脊髄内神経回路の特異性について議論されたことはほとんどなかったが、本実験が外肛門括約筋の運動を制御する脊髄内の神経回路は上下肢との間にいくつかの点で相違があることを明らかにした点は意義深い。今後は外肛門括約筋を制御する神経回路の特徴をより明確にし、排便に関するリハビリテーションに役立てて行きたい。
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