研究概要 |
生体には筋の代謝要求に応じて換気量を調節する機能がある.しかし,興味深いことに,運動開始直後の20秒間程度(Phase I)にはそれがあてはまらず,換気量は急増する.このPhase Iの換気急増がどの程度,筋の酸素摂取(代謝応答)の立ち上がりの速さに貢献しているのかは分かっていない.その生理的役割を調べることを本研究の最終目的としている.平成21年度の目的は,どのようにしたら運動開始直後の換気亢進の量を制御できるのかを調べることであった.被験者は学生男子2,女子4名であった.エルゴメータ上の自転車運動で,強度は無酸素性作業閾値以下であった.ペダル回転数は60rpmで,運動は3-5分間行った.ペダル回転数により換気量が変化する可能性があったので,運動開始直後20秒間のペダル回転数を[30,60,90rpm(60rpmがコントロール試行)]に設定した.また,換気亢進を煽るために,90rpm試行の際に腕を受動的に1Hzの頻度にて20秒間動かす試行(90rpm+PAS)をおこなった.さらに,呼吸は循環応答とは異なり,意識的に調整できるため,何も呼吸を意識しないで60rpmの運動を行う試行(N),意識的に運動開始直後10-20秒間,呼吸を減らす試行(D),増やす試行(U)も行った.60rpm試行に比べ30rpm試行は換気急増量が少なくなる傾向であった.90rpm試行では逆に換気応答は増加し,90rpm+PAS試行ではさらなる増加傾向であった.また,N試行に比べ,D試行のほうが換気急増量は少なくなる傾向にあり,U試行では逆に増加する傾向があった.これらの結果より,Phase I換気急増量は制御できることがわかった.今後,運動開始時に呼吸を制御した結果,運動時の代謝応答がどのような影響を受けるのかを調べることが可能となった.
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